培養真皮線維芽細胞移植につきプロであり、ビジネスモデルとして展開されている北條元治医師からご丁寧な回答を頂きました。以下に全文を記載します。培養そのものにつき危惧している部分が丁寧に説明されており、形成外科医や皮膚科医なら常識的に納得できる内容です。一般の人にはちょっと難しいかもしれません。このような回答を頂けることはうれしい限りです。


先生の書かれたコラム「オイオイ本当?最新美容医療」を読みました。培養真皮線維芽細胞移植術を実施している医師としての私の見解です。


1.まず培養方法ですが、単なる組織培養です。

2.培地はMEMをモディファイしたものです。アミノ酸を培地に添加しますが、成長因子はもとより蛋白も添加しておりません。培地メーカーから守秘義務契約を交わし、サプライヤーディーテールレポートを取得し、納品制限(納品前エンドトキシン値、無菌検査陰性)を製薬業に準じて行っております。確かに、成長因子を使った場合にはウォシュアウトを繰り返しても、そもそもがシグナルトランスダクションのトリガーになるものですから、完全なウォシュアウトは望めません。ですから、一切の成長因子を排除しています。確かにEGFを添加した培地では、細胞の増殖曲線を描くと、低血清でも増殖しますが、現時点で、その安全性の観点から培地への添加は見送っております(メディカルグレードのEGFであれば検討しても良いかなと考えていますが・・・)。また、血清についてですが、無血清培地ではあありません。本人の血清と、本人の血小板α顆粒由来成長因子のみを使用しています。当然ながら、使用する酵素も動物由来酵素は使用しておりません。完全animal origin freeの培養法です

3.継代培養すると本来個体として持っている性質を失うのではないか?と言う疑問ですが、「臓器は細胞の単なる集まりではなく、細胞間相互作用でマトリックスを形成し、かつホメオスタシスを維持する」という観点に立つと、細胞間相互作用の環境から離れた培養細胞は徐々に細胞特性を失うのではないか?と言う疑問は至極当然だと思います。また、細胞特性とは何か?と言う本質的回答は今の科学では何とも言いがたいところがあるのも事実です。また、皮膚から出てきた線維芽細胞の由来も不明とのご意見ですが、確かに細胞の状態になってしまっては、間接的にこれが皮膚の線維芽細胞だと証明(蛋白をアッセイ、マーカーなどの免染もしくはFACS)するしかありません。これも本質的な回答は非常に困難です。ただ、以下の実験データから先生に推察して頂くだけにとどめておきます。
(1)ライン化された線維芽細胞(2)食道由来ヒト線維芽細胞(3)皮膚由来ヒト線維芽細胞、を用いそれぞれ3種類の複合型培養皮膚(線維芽細胞に裏打ちされた培養皮膚)を作成しました。それをスキッドマウスに植えて培養皮膚の状態を観察したところ、表皮形成を維持したのは継代数にかかわらず、皮膚由来ヒト線維芽細胞だけでした。結論「上皮を維持する事が出来るのは皮膚由来の線維芽細胞だけで継代数にはよらない。また、線維芽細胞でも由来臓器(ライン化含む)が違えば皮膚を維持するというキャラクターを絶対発現しない」です。

4.確かに線維芽細胞は真皮内では創傷治癒機転が起こらない限り、安定した状態、つまりG0期ですが、培養細胞は一過性増殖期に入っていますので、投与する時点でセルサイクルが廻っています。全ての移植した培養細胞はおっしゃるとおりセルサイクルを急速にG0期に持ってゆくと思われますが、その分を見越して過剰に細胞を投与します。培養真皮線維芽細胞を移植した局部はタイムラグをもって不思議な腫れ(微弱ですが)を示す事があります。これは、一部の真皮線維芽細胞は複雑なサイトカイン系に反応し独自のコラーゲンを作り出す前触れと考えますはずですたぶん先生のお考えのような反応が起こっていると思います。

5.培養細胞がコラーゲンを産生するなら、depressionに関してはどうコントロールされるのでしょうか?と言う質問は、培養細胞の自立増殖能の獲得(ケロイドや癌化)とセットで良く受けますが、それも正常細胞を培養しているという前提に立てば問題はないと思われます(私見)。contact inhibitionはどんなに継代培養しようとも、こればっかりは細胞のキャラクターとして失われないからです。現代科学では腫瘍の特性である不死化(ライン化)することには成功しても。contact inhibitionの解除には未だ成功していないということも生命の神秘(細胞の自立性)が伺われます。

以上が回答でした。非常に理路整然とされており、私自身は分かりやすく感じました。でもやっぱり現状では難しいのかなあというのが正直な感想ですね。

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